江戸時代の人の本への価値感

人々の間で、封切本で貸本を読むことが「誇り」となっていたのだから人々の活字欲求は相当なものである。
そこで、改めて江戸や大阪における貸本屋の盛況ぶりといえば、『画入読本外題作者画工書肆名目集』によれば、文化5年(1808年)、江戸には12組、世話役33人、総人数656人の貸本屋がいたそうだ。また、『慶長以来大阪出版書籍目録』によれば、文化10年、大阪では300前後の貸本屋がいた。
寺門静軒『江戸繁昌記』三編「書舗(ホンヤ)」では、天保5年(1834)、江戸の貸本屋は800人を数えたそうだ。
『江戸繁昌記』は戯評をまじえた、漢文の風俗探訪記なので、多少の誇張を割り引くべきだがそれにしても数が多い。
長友の研究によると、1人の貸本屋が100人以上のお得意さんを持っていたとするならば、19世紀前半の江戸には、少なく見積もっても7,8万人に近い貸本愛好者がいたことになる。
当時の江戸の人口は100万人くらいだったと推定されている。江戸は男社会だけでなく、大人社会でもあり、成人人口が全体の7割を超えるとすれば、10人に1人以上が大衆的な読み物の愛読者だった。
印刷技術と人々のほんの需要は相互作用的に発達していった。便利になったはずの現代では若い世代で「本ばなれ」が進んでいる。文学は私たちに豊かな心と世界観を与えてくれるものである。
江戸の人々が純粋に「おもしろい」と思う草紙を愛したように、われわれも文学のおもしろさにもっと気づくべきなのかもしれない。