草紙について

その意味で、活版印刷それ自体は、「知」の普及という点では、必ずしも革新的な技術だったわけではない。

一定の必要部数を刷ったら、その版を解体してしまう点では、むしろ「知」の占有階層を作り、それを固定させてしまうシステムだった。

それに対して、木版印刷は何回も増刷がきく点で、不特定多数の人の需用に何時でも、効率よく対応でき、「知」の流通と普及に大きな利点を持っていた。

もう一つの理由は平仮名の印刷の問題で、平仮名の活字を、ばらつきなく、均一的な書体で作るのは意外に難しい。

それに較べて、木版は平仮名の草書体の、あの流れるような連なりまでも、繊細に表現することが可能だった。

木版印刷で出版された本はこの後貸し本屋によって庶民に流通していく。実用書や教養書は「物之本」で、物語や挿絵中心の本は(絵)草紙という。

物之本は客が出向いて買うこともあったが、草紙は一度読んで「おもしろい」と思えれば良いので貸本屋で借りるのだ。そしてそのような傾向にあった草紙は売買されることが少なかった。